自筆証書遺言を作成しましたが、事情が変わって、遺言書の内容を変更したい場合はどうすればいいでしょうか。

民法1022条には「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定されています。

遺言の方式で撤回するというのは、「遺言者は、令和○年○月○日付けで作成した自筆証書遺言を全部撤回する。」というような内容の遺言書を新たに作成するということです。新たに作成する方式は、自筆証書遺言でもいいですし、公正証書遺言でもかまいません。

遺言書の内容を一部撤回(変更)したい場合であっても、無用な混乱を避ける意味でも全部撤回して新たな遺言書を作成し直した方がよいでしょう。

複数の遺言書が見つかった場合はどうなるのでしょうか。

民法1023条1項には「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定されています。
「抵触」するとは、前の遺言と後の遺言に記載されていることが「相違」するということを意味します。

複数の遺言書がある場合は、前の遺言書と後の遺言書で内容に抵触する部分があれば、後の遺言書によって前の遺言書のその部分は撤回されたものとみなされますが、抵触しない部分であれば、その部分は有効ですので、一概に一番後の遺言書だけが有効な遺言書ということにはなりません。

例えば、次のとおり2通の遺言書があったと仮定します。

①令和5年4月1日付けの遺言書で「甲不動産と乙不動産は妻に相続させる」

②令和6年3月1日付けの遺言書で「甲不動産と丙不動産は長男に相続させる」

という内容の遺言書があった場合、抵触する部分は甲不動産ですから、結果として、①の遺言書で妻が相続するのは乙不動産となり、②の遺言書で長男が相続するのは甲不動産と丙不動産ということになります。

したがって、複数の遺言書が出てきたら、遺言書を作成年月日順に並べて、古い遺言書がその後の新しい遺言書のどれに抵触するかを確認する必要があります。仮に3通の遺言書があったとして、3通ともそれぞれ別の事項について遺言しており、相互に抵触していなければ、3通とも有効な遺言書ということになります。

上記のとおり、複数の遺言書を作成してしまうと、相続人は遺言書の内容をよく読み比べなければならず、簡単には誰がどの財産を相続するのか判断に迷い、相続人間で無用な争いに発展する可能性もなくはありません。よって、遺言者は、以前に作成した遺言書を変更する場合は、改めて遺言全体を書き直して、それさえ読めばすっきりと頭に入ってわかるという遺言書にした方がよいでしょう。

前に作成した自筆証書遺言の内容を変更する場合、その遺言書を自身ですべて破棄して、単に初めて遺言するような形式にして遺言書を作成し直すことはいけないのでしょうか。

それは問題ありません。
ただ、公正証書遺言を作成している場合は公証役場に遺言書原本が保管されていますので、遺言者が破棄することはできません。公正証書遺言を無かったことにするには、公証役場で公正証書遺言を撤回する手続を取らなければなりません。この撤回の手続は、公正証書遺言を作成したときと同じく証人2人を用意して、公証人に対し公正証書遺言を撤回する旨の申述をしなければなりません。

遺言の内容を変更することが目的であるならば、公証人からは、改めて変更する内容の公正証書遺言を作成することを勧められると思いますが、それに従った方が確実な遺言が残せると思います。

いずれにしても一旦作成した遺言書の内容を変更する場合は、注意すべき点がいくつかありますので専門家にご相談されることをお勧めします。