賃貸住宅退去時の原状回復をめぐるトラブルについて
賃貸住宅のトラブルについては、消費生活センターに毎年3~4万件程度の相談が寄せられており、そのうち、3~4割程度が「敷金並びに原状回復トラブル」となっているようです。先日の中日新聞にも同トラブルが多くなっている記事が掲載されていましたので、今回のブログで取り上げてみました。
改正民法(令和2年4月1日施行)では、賃借人の原状回復義務に関するルールが明文化され、通常損耗や経年変化については賃借人が原状回復義務を負わないことが明記されましたが、実際のトラブルでは、損傷等が通常損耗等に当たるか否かに加えて、賃借人の負担範囲を巡って紛争になっているケースが多いようです。
賃借人の原状回復義務等の考え方について
国土交通省では、原状回復にかかるトラブルの未然防止と迅速な解決を目的として、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」(ホームページリンク先:(Microsoft Word - honbun2 (mlit.go.jp)➡PDFファイルをダウンロードしてください。)を策定し、以下のとおり、原状回復義務の一般的な基準が示されています。
〇建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)及び賃借人に通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)については、賃借人に原状回復義務はない。
〇賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等については、賃借人に原状回復義務がある。
また、仮に賃借人が原状回復義務を負う場合であっても、以下のとおり、原状回復の費用負担等のあり方の一般的な基準が示されています。
〇建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担を軽減させることが適当である。
〇原状回復負担対象範囲は、補修工事が可能な最低限度の施工単位とすることが基本である。
トラブルにならないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。
賃貸借契約では、契約自由の原則により(民法521条)、以下の3つの要件をクリアすれば、裁判所では、賃借人に特別の負担を課す特約は有効であると判断しています。
①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないこと
②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
よって、契約前に契約書の記載内容、特に特約の内容(退去時の原状回復に関してどのような内容が定められているのか)を十分に理解し納得したうえで契約すること、また、入居時に部屋の状態を確認し、入居前からあったキズ等についての客観的証拠として写真を撮影して賃貸人側に示しておくことが重要といえます。
トラブルが生じてしまった場合になにか参考となる資料はありませんか。
国土交通省において、上記のガイドラインの他に、以下の2つの資料がホームページにアップされており、参考になると思います。そのリンクを貼り付けましたのでご覧ください。特に、①の資料は、クロス、フローリング、畳表替え、部屋のクリーニングなどの費用負担の考え方が具体的に示されています。また、賃貸人側との話し合いでは解決できないときの解決手法やADR(裁判外紛争解決手続)についても記載されていますので、参考になると思います。
ちなみに、愛知県行政書士会においても行政書士ADRセンター愛知を設置しており、居住用賃貸建物に関する敷金返還または原状回復に関する紛争を取り扱っていますので、トラブルになってしまったら一度お問い合わせしてみてください(お問い合わせ先などのホームページのリンク先:行政書士ADRセンター愛知|法務と実務のスペシャリスト、愛知県行政書士会のホームページ。申請書類などの相談・作成・提出は、国家資格の「行政書士」に、まずご相談ください。 (aichi-gyosei.or.jp))
①「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(リンク先:(001611293.pdf (mlit.go.jp))➡PDFファイルをダウンロードしてください。
②民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改定版)(リンク先:(001399558.pdf (mlit.go.jp))➡PDFファイルをダウンロードしてください。