法定相続人の中に行方不明者がいる場合の相続手続はどうすればいいのでしょうか。
相談の中でもよく受ける質問です。たとえば、母はすでに他界しており、父が亡くなったのですが、法定相続人である長男、二男、長女の3人のうち、二男の行方が分からないというような事案です。また、こういった相談の事案では父は遺言書を残していないというのがほとんどです。
遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産分割の話し合いをしたうえで遺産分割協議書を作成しないと相続手続は進められません。以下、二男の居場所について何ら手掛かりがないことを前提にして、行うべきことを時系列で記載します。
①行方不明者の住所を特定します。
住所を特定する方法としては、行方不明者の現在の本籍地を調べて、その本籍地にあたる市町村役場から戸籍の附票を取得します。戸籍の附票というのは、いわゆる住所地の履歴が記載されたものです。
具体的な取得方法としては、たとえば、亡くなった父の出生から亡くなった時までの戸籍を取得して、その戸籍の中にいた二男がいつ戸籍から抜けたのかを調べ(二男が結婚すると、戸籍が新たに編製されます。)、新たに編製された二男の戸籍を取得します。仮に、二男が転籍(本籍地の変更)していたり、離婚していたりすると、現在の本籍地にたどり着くまでに更に取得する戸籍が増えることになります。最終的に、現在の本籍地にあたる市町村役場が判明すれば、その市町村役場に二男の戸籍の附票を請求することになります。戸籍や戸籍の附票を取得する場合は、市町村役場の戸籍窓口の担当者に相続に使用すること、相続人のうちの一人が行方不明で住所を確認する目的があることなどを伝えれば取得方法などを説明していただけると思います。
また、戸籍等の取得などを士業に依頼することも可能です。
②行方不明者の住所がわかったら、連絡をする。
二男の戸籍の附票が取得でき、それに記載された住所が近い所であれば、直接会って相続が発生したことを説明した方がいいと思いますが、遠方で行けなければ、相続が発生したことと、遺産分割協議が必要なことなどを記載した手紙を送って、その反応を見ます。手紙には、送付された方の連絡先電話番号を記載しておくといいでしょう。
③二男が遺産分割協議に加われば、法定相続人全員で協議の結果を遺産分割協議書にまとめます。
住所にあてて手紙を送付しても何ら反応がない場合や、連絡があっても遺産分割協議に協力的でない場合はどうしたらいいのでしょうか。
手紙を送付した場合、郵便局から「あて所に尋ねあたりません」と記載されて返送された場合は、そこに住んでいない可能性が高いと思われます。この場合の対応は、最後の項目に記載します。
連絡は取れても、遺産分割協議に協力的でなかったり、言い分が食い違って協議が整いそうにない場合は、紛争状態とも言えますので、弁護士に手続を依頼するか、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることが相当と思います。ちなみに、調停の申立ては弁護士でなくてもできますので、家庭裁判所に申立ての手続や必要書類などを確認してみてください。私は、前職で裁判所書記官をしていた経験からすると、弁護士は依頼者の利益を優先しますので、弁護士の提案に納得できない相続人がいれば、結局調停の申立てに至らざるを得ないという事案が多かったように感じます。裁判所のホームページのリンクを貼り付けましたので、参考にしてください。
●裁判所ホームページ遺産分割調停 | 裁判所 (courts.go.jp)
これ以上、手を尽くしても居場所がわからない場合はどうしたらいいのでしょういか。
以下の二つの手続が考えられます。
①家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申立てを行う。
家庭裁判所に不在者財産管理人の選任をしてもらい、同管理人が家庭裁判所の許可を受けて遺産分割協議に参加するという手続です。
●裁判所ホームページ不在者財産管理人選任 | 裁判所 (courts.go.jp)
②家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行う。
失踪宣告というのは、家庭裁判所が生死不明となっている人について法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。失踪宣告を出してもらうには、家庭裁判所での手続が必要です。
●裁判所ホームページ失踪宣告 | 裁判所 (courts.go.jp)
上記の手続については、裁判所のホームページのリンクを貼り付けましたので、参考にしてください。これらの申立ては、一般の方でも行えなくはないですが、かなりの労力と手間を要しますし、申し立てても思ったとおりの結論にならない可能性がありますので、士業にご相談されることをお勧めします。
まとめ
上記のように、法定相続人の中に行方不明の方がいる場合は、残された相続人たちは相続手続を進めるために大変な思いをすることになります。上記の事案であれば、父親が生前に遺言書を残しておかれることを強くお勧めします。