日本経済新聞社主催のセミナー「日本人の相続観と相続リテラシー(相続に関する意識調査より)」を受講して

先日、表題のセミナーを受講し、その中で、三菱UFJ相続研究所所長による基調講演が大変参考になりましたので、いくつかご紹介します。

基調講演に先立ち、三菱UFJ信託銀行が以下の調査を行い、そのデータを踏まえた講演であったことから、客観性、納得性のあるものでした。

【調査目的】40代以上(年代別)の、相続・遺言に対する意識、将来の機能低下時の価値観、相続リテラシーの状況、遺言デジタル化に関する意識の把握

【調査対象】40歳以上の男女(45歳~49歳、50歳~59歳、60歳~69歳、70歳以上で区分して、それぞれが25%の割合になるように調査したもの)

【調査地域】全国

【調査時期】2023年9月22日~9月24日

【有効回答者数】5,152回答(調査数10,000)

相続に関する15個の質問に対して知っていると回答した割合

①配偶者がいても、兄弟姉妹(異父母、婚外子含む)、甥姪が法定相続人になる可能性あること
 知っていると回答した人:1,001(割合19.4%)

②離婚時に親権を放棄し除籍された子も法定相続人に含まれること
 知っていると回答した人:1,005(割合19.5%)

③法定相続人がいない場合、遺言がなければ財産は国庫に入ること
 知っていると回答した人:1,598(割合31.0%)

④法定相続人以外の者に確実に遺産を渡すには遺言が必要であること
 知っていると回答した人:1,635(割合31.7%)

⑤法定相続割合は、あくまで目安であり、保証されているものではないこと
 知っていると回答した人:1,077(割合20.9%)

⑥遺言がなければ法定相続人全員で遺産分割協議を行う必要があること
 知っていると回答した人:1,741(割合33.8%)

⑦遺産分割協議が行わなければ遺産は相続人全員の共有状態が続くこと
 知っていると回答した人:817(割合15.9%)

⑧遺産分割協議において弁護士を入れた交渉や調停でも話がまとまらなかった場合、確定するには裁判を起こす必要があること
 知っていると回答した人:849(割合16.5%)

⑨遺留分について、配偶者や子供にはあるが、兄弟姉妹にはないこと
 知っていると回答した人:1,373(割合26.6%)

⑩遺留分を侵害されている場合、侵害額を受け取るためには侵害した人に主張して請求する必要があること
 知っていると回答した人:723(割合14.0%)

⑪遺留分侵害額を請求できるのは金銭のみ(不動産や株式等は請求できない)であること
 知っていると回答した人:466(割合9.0%)

⑫基礎控除(3,000万円+相続人の数×600万円)の範囲内であれば相続税はかからないこと
 知っていると回答した人:2,244(割合43.6%)

⑬相続税がかかる場合、申告期限は原則10か月以内であること
 知っていると回答した人:1,133(割合22.0%)

⑭認知機能が低下している相続人は、相続手続のために後見人が必要になる可能性があること 
 知っていると回答した人:1,251(割合24.3%)

⑮令和6年4月以降、不動産は一定期間内の登記義務(違反は過料制裁)があること
 知っていると回答した人:847(割合16.4%)

上記15個の質問に対して知っているものはひとつもない

 1,331(割合25.8%)

自筆証書遺言の有効性について

三菱UFJ信託銀行の相続センターに提出された自筆証書遺言の概ね8割が相続手続に使えないものであるとのことです。たとえば、形式不備で法的に無効であるケースや、法的には有効であるものの、遺言書の内容が曖昧で、正確ではないというケースのようです。

内容不備についての具体例としては、預貯金については〇〇に相続させるとあるものの、投資信託や国債があるのにその記載がないケースや、不動産については〇〇に相続させる、動産については〇〇に相続させるとあるものの、不動産でも動産でもない預貯金についての記載がないなどで、そのように記載されていない遺産については、原則として、相続人全員で別途遺産分割協議の手続を取ってもらうことになったということです。

感想

上記の他にもいくつかの調査結果が示された貴重な講演でしたが、調査結果のすべてを紹介することは困難ですので、上記にとどめました。

15個の質問に対する回答の結果からは即断できないものの、15個の質問に対して知っているものはひとつもないと回答した人が25.8%いることは相続制度の理解が必ずしも浸透している状況にはないといえるかもしれません。

また、せっかく残した自筆証書遺言の概ね8割が相続手続で満足に使えないという結果には少し驚きました。その原因を特定できるものではありませんが、遺言作成のルールを熟知しないで作成している人が多いということはいえるのではないでしょうか。

講演テーマの中に、「相続リテラシー」とありますが、リテラシーの意味を「知識やスキル、理解力」と解釈すると、超高齢社会の日本において、少しでも相続リテラシーを高めるように努めていくことが我々士業の役割でもあると感じました。