遺産分割協議後に遺言書が見つかりました。既に行われた遺産分割はどうなるのでしょうか。

先日、実際にこのようなご相談を受けました。

被相続人(亡くなった人)が自筆証書遺言を作成していた場合、その事実を誰にも告げずに亡くなってしまうと、相続人が遺言書の存在に気付かないまま遺産分割協議を行ってしまうということは実際にあり得ることです。後に遺言書が発見されたことにより、既に行われた遺産分割協議の効力について相続人間で争われた裁判例も少なくありません。

遺言書と遺産分割協議書の関係性について

原則として、遺言書があればその内容が優先することになります。

遺言書は、遺言者の死亡の時から効力が発生する(民法985条1項)ことから、被相続人が死亡した時点で遺言書の内容に基づく権利関係の変動が発生したことになります。したがって、遺産分割協議をした後であっても、遺言書が見つかった場合は、原則として遺言書の内容が優先されることになります。

ただし、相続人全員が、遺言書の存在及び内容を知ったうえで、相続人全員(遺言書に相続人以外の第三者に遺産の一部を遺贈する旨が記載されている場合には、その「受遺者」も含む。)が合意をすれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割を成立させることは可能です。
しかし、遺言書に遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の同意が得られなければ原則どおり遺言書が優先することになります。

ちなみに、遺言執行者とは、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」(民法1012条1項)となっており、また、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない。」(民法1013条1項)と規定されているように幅広い権限が与えられている人です。

最高裁判所の判例について

遺産分割協議後に発見された遺言書を根拠に遺産分割協議の錯誤が争われた判例(最高裁第1小法廷平成5年12月16日判決)がありますので、それをご紹介します。

最高裁判所は、「特定の土地につきおおよその位置と面積を示して分割した上で、それぞれの土地についてどの相続人に相続させるか分割方法を定めた遺言が存在したのに、相続人全員がその遺言の存在を知らず、相続人の1人が土地全部を相続する旨の遺産分割協議がなされた場合において、もし相続人らがその遺言の存在を知っていれば、既になされた遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いとして、遺産分割協議は要素の錯誤により無効である可能性を示唆し、錯誤無効を認めなかった原審(高松高等裁判所)の判断を破棄して、再度、審議を尽くさせるために原審に差し戻した。」という事案です。

つまり、遺産分割の方法についてある程度明確に定めている遺言書が後に発見された場合において、もし相続人らがその遺言の存在と内容を知っていたとしたら、既になされた遺産分割協議における意思表示(合意)はしなかったと言えるような場合は、そのような意思表示は要素の錯誤により取り消す(無効)ことができると判断しているものです。
ちなみに、要素の錯誤とは、もしその錯誤がなかったならば、意思表示をした本人のみならず、普通一般人もそのような意思表示をしなかったであろうと考えられるほどに重要な部分における錯誤をいうとされています。

まとめ

最高裁判所の判例の趣旨を踏まえると、遺産分割協議を終えた後に、遺言書が発見された場合において、もし相続人らがその遺言書の存在及び内容を知っていたとしたら、既になされた遺産分割協議の意思表示(合意)はしなかったといえるような事情(要素の錯誤)があるかどうかを一つの基準として、裁判所は遺産分割の有効性を判断することとしています。

よって、遺産分割協議後に発見された遺言書を相続人らが見たときに、既になされた遺産分割協議の有効性を争って裁判所の判断を仰ぐというような紛争状態にならないのであれば、その遺産分割協議書によって相続手続を進めることは問題ないといえるでしょう。

ただし、前記のとおり、遺言書に遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の同意を得ることが必要になることには変わりありません。また、遺言書を発見した相続人が、自分にとって不都合な遺言の内容になっているからということで隠匿して、遺言書を破棄した場合は、私文書等毀棄罪(刑法259条)が成立する可能性がありますし、相続欠格者(相続人となる資格がなくなる)(民法891条5項)になります。

いずれにしても、遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合は、専門家にご相談されることを強くお勧めします。