全国の裁判所が取り扱った遺産分割事件数(調停事件+審判事件)はどれくらいあるのでしょうか。
① 令和4年中に取り扱った事件数
12,981件
② 令和3年中に取り扱った事件数
13,447件
全国でたったこれだけなんだ、意外だなと思われた方もいるのではないでしょうか。
ただ、裁判所に申し立てられた事件は、原因はいろいろとありますが、相続人間での対立が激しい場合は、当事者同士で罵り合ったり、調停委員に不満をぶつけたりといった場面を目の当たりにしましたので、1件の処理の重さはかなりのものだったと記憶しています。
また、裁判所には絶対に行きたくない、遺産分割協議の内容には納得できないので印鑑は絶対に押さないという方もいて、相続手続が何年も止まってしまっている事案も少なくありません。今年の4月1日から相続登記の義務化が開始されますので、国からペナルティを課されないように手続を進めることをお勧めします。
裁判所に遺産分割事件を申し立てたら協議は必ずまとまるのですか。
令和4年に取り扱った12,981件のうち、調停成立が5,729件(全体の約44%)、調停に代わる審判(調停が成立しない場合において裁判所が相当認めたときに審判をするもの)が3,719件(全体の約29%)、審判認容(審判事件について遺産分割すべきと裁判所が認めたもの)が1,186件(全体の約9%)となっています。裁判所がなした審判は、不服申立て(異議を申し立てる)ことができますので、必ずしも解決に至った数値とはいえないかもしれません。
ただ、調停成立が約44%あるということは、相続人間で争いの兆候が見られたら、こじれる前に裁判所への申立てを検討されてもいいように思います。
相続争いを生じさせないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。
1 結論としては、以下の点を考慮して公正証書遺言を作成しておくことが相当と思います。
① 法定相続割合(遺留分侵害の点も考慮)
② 相続遺産の大半が不動産である場合の遺産分けの内容
③ 相続人の関係性(複雑な関係かどうかを含め、所在不明の相続人がいるか)
④ 寄与分を主張する人がいそうか
⑤ 特別受益を主張する人はいそうか
⑥ 相続人以外に財産を渡したい人がいるか
以上の他にも考慮していかなければならないことはあると思いますが、これらを考えて遺言書にまとめるのは大変だと思いますので、専門家に相談するのも一つの方法と思います。
2 生前対策
以下のことはしておいた方が安心です。
① 生前整理ノート(エンディングノートとも言われます。)を作成しておきましょう。
少なくとも財産目録は作成しておきたいところです。
② 家族(相続人)との間で相続についてコミュニケーションを取っておきましょう。
必ずしも自分の財産をすべて開示しなくとも、コミュニケーションを取る中で家族の考え方がわかってくるのではないでしょうか。もし遺言書を作成するとしたら、その情報は非常に有益になると思います。
私のヒヤリハット事例
相談会で、自分の相続人達はみんな円満な人間関係で、自分にはそんな財産はないから遺言書を作る必要はないと言われる方がよくいらっしゃいます。
確かに遺言書がなくても遺産分割協議が円満に進むご家族もいらっしゃいますが、円滑(迅速)に進むかは別問題です。
私が経験した中で、亡くなった方の財産調査をして遺産分割協議書を作成した後に、ご家族もまったく知らなかった新たな預金口座、上場株式の保有、相続型信託などがあることがわかり、ヒヤリとしたことがありました。相続税申告事案にはならず、相続人の方達ももめることはなかったので、手続は無事に済みました。
次回以降もだれもが経験する遺産相続に関して参考となる情報や、予防法務の観点から契約書・覚書・合意書の作成の留意点なども書いていきたいと思っています。