相続人の中に認知症の人がいる場合の相続手続きや留意点などについて教えてください。

下の相続関係図をご覧ください。

この図は、妻が認知症という状況で、夫(被相続人)が亡くなった場合の相続人の関係を表します。

相続人は、妻(法定相続割合2分の1)、子2人(法定相続割合はそれぞれ4分の1)の3人になります。

被相続人が遺言書を残して相続に関する指示を行っていない場合、相続人全員で被相続人の遺産について、分割方法を話し合う、いわゆる遺産分割協議を行う必要があります。しかし、認知症を発症して判断能力がない妻は、法律行為である遺産分割協議は行えないという問題があります。

このような場合、法定後見制度を利用するために、家庭裁判所に妻の成年後見人の選任申立てをして、選任された成年後見人が遺産分割協議に関与しなければ相続手続きは進められないことになります。

成年後見人には、希望すれば親族や知人がなれるのでしょうか。

家庭裁判所に提出する後見開始の審判申立書には、成年後見人候補者欄があり、同欄に選任を希望する親族や知人を記載して申し立てることはできます。しかし、家庭裁判所は、認知症の方の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる方の職業及び経歴並びに認知症の方との利害関係の有無などの一切の事情を考慮して選任しますので、希望どおりに成年後見人が選任されるとは限りません。

親族や知人などが選任されない場合は、士業などの専門家が選任されます。

士業などの専門家とはどういった方でしょうか。

最高裁判所の統計によると、主に、弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士、社会福祉協議会、その他法人などが選任されているようです。

成年後見人による支援を受けている成年被後見人(認知症の方)がどれくらいいるのか教えてください。

最高裁判所の統計によると、成年後見人による支援を受けている方の数は以下のとおりとなっており、年々増加していることがわかります。
ただし、認知症までの状態(判断能力を欠くのが常の状態)には至っていないが、法律行為のサポートや権利及び財産を守る支援が必要と判断される、判断能力が著しく不十分な方に選任される保佐人、判断能力が不十分な方に選任される補助人の数を含めると、令和4年12月末日時点で245,087人になっています。

令和4年12月末日時点  178,316人

令和3年12月末日時点  177,244人

令和2年12月末日時点  174,680人

令和元年12月末日時点  171,858人

平成30年12月末日時点 169,583人

まとめ

近時、相続に関するご相談において、相続人の中に認知症を発症している方がいらっしゃるという案件が少なくありません。

将来相続人になる方の中に既に認知症の方がいらっしゃる場合、例えば、上記の相続関係図においては、夫(被相続人)が遺言書を残し、子を遺言執行者(遺言の内容を忠実に実現する役割を果たす人)に指定しておけば、遺産分割協議を行うことなく被相続人の遺産相続手続きを進めることは可能です。

よって、遺言書の有無によって相続手続きの作業に大きな差が生ずることがご理解いただけるのではないでしょうか。

認知症対策には、任意後見制度、家族信託(民事信託)などの制度がありますが、どの制度にも一長一短がありますので、選択に迷われたら専門家にご相談されても良いと思います。