相続放棄と遺産放棄(遺産をもらわない)との違いについて

② 相続放棄について

相続人が相続の事実を知ってから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述の受理の申立てを行い、申述の受理の審判がされたことを相続放棄といいます。

相続放棄と遺産放棄(遺産をもらわない)の具体的な違いについて

結論は、遺産分割協議書で遺産をもらわないという内容になっていても、被相続人に借金などの債務があった場合、債権者から請求される法的立場にあるということです。言い換えると、家庭裁判所に相続放棄の手続を行っていない限り、債権者から請求される法的立場にあるということです。

相続はプラスの財産だけでなく、マイナスの負債も含まれます。たとえば、亡くなった父が、借金などの債務を負っていた場合、相続人が母、長女、長男の3人の場合、長男は家庭裁判所に相続放棄の手続を行わなければ、たとえ遺産をもらわない遺産分割協議をしたとしても、長男は債権者に対して法定相続分の割合で支払義務を免れないということです(債権者には遺産放棄(遺産をもらわない)の意思表示をしたことをもって対抗できないということです。債権者が実際に長男に請求するかどうかは債権者の考え方次第になりますが。)。

よって、亡くなった方に債務がある場合、その債務額にもよりますが、どのような相続手続を選択するかは注意したいところです。

「相続分のないことの証明書」について

遺産分割協議書とは別に、相続人のうちの一人または数人が「相続分のないことの証明書」という書類を作成して署名押印するということもよくあることです。たとえば、父から生前、長男が生計の資本として、婚姻の際などに相続分以上の贈与を受けていることから、父の死亡による相続については、受けるべき相続分がないことを認めて、「相続分のないことの証明書」を作成するような場合です。

相談者からお聞きした話ですが、父が亡くなった後、遺産分割協議をすることもなく、長兄から、「相続分のないことの証明書」に署名押印を求められ、逆らえないのでやむを得ず署名押印をして、ハンコ代として若干のお金をもらって相続手続は終わったということでした。相談を受けていると、昔の家督相続の考え方や、親の面倒を見たから遺産のすべては自分がもらうべきという考えを持っておられる方がまだ少なからずいるように感じます。

ただし、この「相続分のないことの証明書」に署名押印したとしても、被相続人に債務があった場合、債権者に対しては対抗できませんので、これも気を付けたいところです。

被相続人の債務の調査方法について

たとえば、被相続人に債務があるかを知りたい場合、法定相続人は、以下の個人信用情報機関に情報開示を求めることができます。手続の詳細については、各ホームページのリンクを貼り付けましたので、確認してみてください。ただ、これらの機関でも、個人間の借入、債権回収会社に回ってしまった債務、保証人になっている場合の債務は把握できないので注意してください。

亡くなってから被相続人の債務を調査するのは相続人にとっては大変な手間と労力がかかりますので、生前整理ノートなどに、プラスの財産とマイナスの負債を書き残しておくことが家族への思いやりになるのではないでしょうか。特に事業をしている方は留意したいところです。

【個人信用情報機関のホムページ】

①CIC  ホームページ(指定信用情報機関のCIC)
②JICC  ホームページ(日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
③JBA  ホームページ(全国銀行個人信用情報センター | 全銀協の活動を知りたい方 | 一般社団法人 全国銀行協会 (zenginkyo.or.jp)