子どもがいない夫婦の相続における注意点
相談者の中には、子どもがいないので、遺言書を残さなくても自分のすべての財産は当然に配偶者が相続できると思っている方が少なくありません。次のことを説明するとびっくりされます。
子どものいない夫婦の一方が亡くなった(被相続人といいます)場合、配偶者は相続人になりますが、被相続人の親などの直系尊属も相続人になり、すでに直系尊属が全員亡くなっているときは、被相続人の兄弟姉妹(代襲相続が発生していれば甥姪)が相続人になります。以下の相続関係図を見てください。
よって、被相続人が生前に全財産を配偶者に相続させる旨の遺言書を作っておかないと、配偶者は、被相続人の親または兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをして遺産分割協議書を作成しなければ、被相続人の財産である不動産や預貯金の相続手続が進まないことになります。
遺産分割協議書を作成するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得するほか、相続人となる親や兄弟姉妹の戸籍謄本と印鑑証明書を取得しなければならないという負担はありますし、それよりも、親や兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをするという心理的な負担はかなり大きいのではないかと思います。
配偶者にすべての財産を相続させる旨の遺言書
遺言書には、相続人が相続手続を効率的に進めることができるように、不動産や預貯金など、財産を特定できるように記載しておくことをお勧めしますが、自筆証書遺言を作成する際に間違って記載してしまうことを防ぐために、簡潔に以下のように記載しておくことも可能です。自筆証書遺言は、民法第968条1項の定めがあり、この要件を欠くと無効になりますので、士業などの専門家に原案を見てもらうか、公正証書遺言の作成を選択するのが確実と思われます。なお、遺留分は兄弟姉妹にはありませんが、親などの直系尊属が相続人となる場合は遺留分はありますので、この点は注意が必要となります。
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻(または夫)〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
ここで留意する点としては、夫婦ともに遺言書を作っておかないと、上記のとおり、妻側または夫側の親または兄弟姉妹が相続人になってしまいます。夫婦で話し合って遺言書を作ることをお勧めしますが、民法第975条で「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」と定めていますので、夫婦で遺言書を作るときは、別々の用紙で作成しなければならないので、気を付けてください。