相続手続の落とし穴をご紹介します。
人間関係を含めてもっと複雑な事案ですが、できる限り簡略化してご紹介します。
下の相続関係図(仮名)を見て相続事例を把握してください。白山太郎が被相続人で、相続人は、長女佐藤裕子、二男白山次郎、亡長男白山一郎の子白山隆夫の3人となります。
白山太郎の相続財産は、住居である土地建物と預金です。白山太郎は、土地建物は二男白山次郎に相続させる、預金は長女佐藤裕子に相続させる、長男白山一郎には何も相続させない、との自筆証書遺言を残していました(白山太郎が自筆証書遺言を作成した時には長男白山一郎はまだ生きていました。)。
白山太郎は生前、長男白山一郎には迷惑ばかりかけられたため絶縁状態になり、自筆証書遺言を作成する際に、長男白山一郎に、お前には相続はさせないと伝え、長男白山一郎も遺産などいらないと言っていました。白山太郎は亡くなる前に、長男白山一郎との間でその相続のやり取りがあったことについて、長女佐藤裕子、二男白山次郎に伝えていました。
自筆証書遺言の検認手続について
白山太郎が亡くなり、二男白山次郎は自筆証書遺言を見つけたことから、家庭裁判所に遺言書検認の申立てをしたところ、遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、相続人全員(亡長男白山一郎の戸籍(除籍)謄本及び長男の子である白山隆夫の戸籍謄本を含む)の提出を家庭裁判所から求められました。
二男白山次郎は、亡長男白山一郎は生前、白山太郎に遺産はいらないと言っていたことから、長男白山一郎や白山隆夫の関係の戸籍等はいらないのではないかと言いましたが、家庭裁判所は手続上必要ですからと聞き入れてくれませんでした。二男白山次郎は、大変苦労して、亡長男白山一郎及び白山隆夫の戸籍(除籍)謄本を集めました。
その後、家庭裁判所が指定した遺言書の検認期日に白山隆夫は出席しませんでした。
検認手続の概要は、1月28日付けのブログをお読みください。
遺留分侵害額請求について
白山太郎の自筆証書遺言の検認手続が終わって数日が経ったとき、白山隆夫が委任した弁護士から、遺言書の内容は代襲相続人白山隆夫の遺留分を侵害しているため侵害額を請求する旨の内容証明郵便が送られてきました。驚いた二男白山次郎と長女佐藤裕子は弁護士に相談したところ、弁護士から、亡長男白山一郎が生前、遺産はいらないと言っていたとしてもそれだけで相続権がなくなるわけではなく、法律上、白山隆夫は代襲相続人になると聞かされ愕然としました。
結果として、遺産分けの決着が付くまでにかなりの長い時間を要することになりました。
遺留分の概要については、2月11日付けのブログをお読みください。
白山太郎の相続対策の問題点について
白山太郎は、絶縁状態にあった長男白山一郎を相続人から廃除したい思いが強かったのであれば、自筆証書遺言を書く前に専門家に相談していればいろいろなアドバイスが聞けたと思われます。法律上の規定に基づいて長男白山一郎の相続人廃除(相続権を失わせる)の手続が取れたかもしれません。
本事例は、代襲相続が絡んだこともあり、結果として紛争になってしまいました。
白山太郎は、長男白山一郎が自分より先に亡くなった時点でも自筆証書遺言を書いた経緯などを専門家に相談していればここまでの紛争に発展していなかったかもしれません。
また、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成していれば、面倒な検認手続を経る必要はなく、公証人からも遺言の内容について何か役立つアドバイスをいただけたかもしれません。
本事例のように、相続人の中に相続をさせたくない者がいたり、音信不通の者がいる場合は、専門家に相談した上で、公正証書遺言を作成しておくことがベストであると思われます。